黒瀬 珂瀾


ヨーグルトかきまわし白で白覆う とりかえしつかぬことはもういい

松平盟子『天の砂』

プレーンヨーグルトに蜂蜜を少量たらし、スプーンでかき混ぜて食べるのが好きだ。

カップに納まった固形ヨーグルトではなく、どろんと流れる液体ヨーグルト。スプーンで掬ったヨーグルトをヨーグルトの上に零してみると、わずかな時間、盛り上がりが残ったりして、その不思議な様子を楽しんだりする。

純白のヨーグルトを純白のヨーグルト自身で覆い隠すかのようにかき混ぜる作者。その色には一切の差がなく、スプーンのたどった痕跡もすぐに、静かな純白の水平の中のなかに沈み込んでゆく。

それにしても、人生は「とりかえしつかぬ」ことだらけだ。一度波が立てば、純白の水平に戻る事は無い。どんなに修復しても何かの痕跡は残る。それが却って良き結果を残す事もあるのだろうが。

愛恋、家族、人間関係、仕事、金銭、そして生死。いずれも一筋注いだストロベリーソースのように、いつまでもヨーグルトの純白には溶け込まない。だからこそ作者はこの朝、何も加えないプレーンヨーグルトをかき混ぜる。純白を己の糧にするかのように。

とりかえしのつかぬことはさっぱり忘れてしまえばいいと、水平に戻ったヨーグルトが教えてくれる。そんなささやかな朝餐の光景には、かすかな愁いが美しく漂う。言い放つような結句のそぶりが、読者の心の中に、アンニュイな空気と作者の気恥ずかしさをふっと差し込んでくる。そこまで言いおおすからこそ、松平の歌は共感を呼ぶのかもしれない。

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