江戸 雪


パン選ぶ君のすがたを玻璃越しに見つめるときのわれは行人

桝屋善成『声の伽藍』(2002年)

パンを買うといって、店にはいっていった君。
ベーカリーには、たくさんの種類のパンが並んでいる。よいにおいがするなか、トングとトレイを持って、美味しそうなパンを選ぶときの幸福感♪
男性にはあまり経験することがない時間かもしれない。
外に立って、店のなかをなんだか楽しそうな君が行き来しているのをガラス越しに見ている。

さっきまで、そばを歩いて、空間を共有していた君。
そんな君が、自分からすこし離れて、自分に見られていることにさえ気づかずにいる。
「見つめる」と表現するあたり、秘密をこっそりのぞいているような気分になっているのだろうか。

隣にいるときに見せる表情とは違う、そばにいないからこそ見える君の一面。
ひとがそれぞれいろいろな顔を持つことはあたりまえなのに、このときの君が遠いひとに感じられるという不思議。
「行人」とは、通りを行く通行人や見知らぬ旅人。
まるで、君と何の関わりもない、初めて君を見たひとりとして、あらためて君への想いをたしかめているようだ。

ついでに。
この歌の作者は男性なので「君」を女性として読んだが、今どきの男女なら逆もありうるなあとおもったりもした。