北原白秋『桐の花』(1913年)
少し個人的なことを書かせてもらうと、この歌は私が短歌を始めるきっかけとなった一首である。中学二年の国語の教科書に載っていた。
ヒヤシンスが薄紫に咲いていた。それは、初めてこころが顫(ふる)えた日のことであったことよ。こころが顫うとは君のことを想う、恋が始まったということであろう。中学二年生の私の読解力と経験(?)では、最初は恋の歌であることは読みとれず、むしろヒヤシンスの歌だと思っていたのだが、教師の解釈を聞いて歌の風景がぱっと変わったのを覚えている。ヒヤシンスと初恋が一瞬のうちにつながったのである。
上の句と下の句に対置された風景と心理がやわらかく重なりながら一首として膨らんでゆく。ヒヤシンスという花と無垢な初恋の取り合わせは新しく鮮やかで、一回性のものであったに違いない。
この歌に出会って23年、未だに飽きずに歌に向かい続けている。