魚村 晋太郎


熱湯に月桃花茶のティーバッグふかく沈めてこの世にひとり

渡英子『レキオ 琉球』(2005年)

月桃(ゲットウ)はショウガ科の多年草。
日本では沖縄と九州南部に分布する。
茎は3メートルにも達し、6月から7月、美しい花をつける。
総状に垂れ下がるピンクがかった白い花は、ひらくとなかから黄色に赤い豹紋のさしたあざやかな花唇があらわれる。
ハワイの切花として有名なレッド・ジンジャーも近縁。
芳香のある葉は、古くは食品をつつむのに使われ、茎の繊維はマットやロープを作るのに使われた。
漢方薬としても用いられる実や葉を茶にして飲む。

お茶に湯をそそぐときには、独特の感じがある。
じんとひろがる色と香りは、まるで誰かの記憶や、自分の思いがひもとかれてゆくようでもある。
コンビニエンス・ストアにさまざまな種類のペット・ボトル入りのお茶がならんでいても、湯をさして淹れるお茶の香りとはまったく別のものだ。

主人公が自身を、この世にひとり、と感じたのは、夫の転勤にともなって、親類縁者のいない遠い南の島へ転居したことがきっかけだ、と歌集全体からは推察される。
転居にともなう忙しさが一段落した頃か。圧倒的な異文化と南国の自然に身をさらして、人間はひとりなのだ、ということがあらためて主人公のこころにしみる。

熱湯の熱、いかにも南方的なはなやいだ花の名前。
そして、ひらいてゆく月桃の香り。
主人公はさみしいのだが、その孤独感にはどこかうっとりとしたところがある。