もうまもなく止む雪らしい 夕刊にビニールの掩ひ懸けられてても

川崎あんな『エーテル』(2012年)

 

   いつ頃からだろうか、雨や雪の日に配達される新聞には、うすいビニールが懸けられるようになった。新聞が濡れないようにという顧客への配慮ではあろうが、雨の日くらい濡れたっていいじゃないかと感じることもある。雨の日の濡れた新聞というのも、短歌的には?なかなか風情があるのではないだろうか。

   この歌では主体は、夕刊に懸けられたビニールを見ながら、「もうまもなく止む雪らしい」ということを頭にめぐらしたのである。それは作者の直感なのか、窓から降る雪の勢いを見ていてそう思ったのか、判断の根拠は分からない。私には、何となく直感のような感じられるが、そのあたりをあえて空白にしている作といえよう。雪がもうすぐ止むだろうなあということを感知した理由や状況を少しでも描けば、そこには歌人の繊細な感性が析出されるだろう。読者はそれを知りたいはずなのだが、この歌の素っ気なさは読者のそのような欲望を宙ぶらりんにする。肝心の部分を空白にして、歌に何が残るか。歌が解体される直前の実験的な作といえば言い過ぎだろうか。

 

ようこそと聲の聞こえてぽかんぽかんとみなもに浮かぶ西瓜たくさん

 

   『エーテル』は川崎あんなのおそらく、第三歌集である。「おそらく」とつけたのは、本歌集にはあとがきも著者プロフィールもない。歌集全体としては、二首目に上げた歌のように楽しく作られた歌も多いのだが、常にどこか隠されていて作中主体が逃げてゆくような感じもする。さまざまな意味で注目歌集であると思う。

 

編集部より:川崎あんな歌集 『エーテル』はこちら↓

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