江戸 雪


一片の空にこと足りてあり経れば切切と君の手紙は届く

酒井佑子『矩形の空』(2006年)

病んでベッドに臥す日々。窓があり、窓から空をながめることのありがたさを、これほど感じるときはないだろう。
「一片の空」がかなしい。
大地に足をふんばり見上げる空ではない。起き上がれずに、窓のかたちに切りとられた小さな「一片の空」なのだ。
それでも、鳥が横切り、雲が流れ、太陽が照り翳る。航空機が飛んだりもするのだろうか。
身体を自由に動かせるときには目をむけることさえあまりない空のありようを、弱った心身で眺め受容するだけで、いちにちが終わっては始まるという日々。

ベッドの上にひとときパラソルを拡げつつ癒ゆる日あれな唯一人の為め                                                               河野愛子『夏草』

かつて河野愛子が「唯一人」と詠んだのように、「君」がまたこの歌でもかなしい存在感を持つ。
待っているひとがいてくれる心づよさ。
「君の手紙」は、河野愛子の儚い「パラソル」のように、自分と遠い外界を結ぶ希望。

「手紙」には何がしたためられていたのだろう。
来年、来月、来週、明日の約束だろうか。
果てしない空がそこに、ある。