一ノ関忠人のアーカイブ

うちなびき春は来にけり青柳のかげふむ道に人のやすらふ

ま昼どき畳のうへにほうほうと猫の抜毛の白く飛びつつ

死の穢れなどといふものを落とすためわが身に人は塩の粒まく

蜜入りの南高梅の一粒をねぶりて足れるわが夕がれひ

こゝをまたわれ住み憂くてうかれなば松はひとりにならむとすらむ

原発が安全ならば都会地になぜ作らぬとわれら言ひたき

昔むがす、埒もねえごどあつたづも 昔話となるときよ早来よ

炎の尖は澄みて春暮のあかるさへのびあがりまたのびて澄みゆく

夕の陽にみつまたの花咲きけぶる甦りくるいのちの明かり

春の雨こおろこおろと降り来れば石蕗の薹たけてしまいぬ

いつしらに庭の白梅咲きさかり夕かぎろひのなかに散りゆく

かの子等はあをぐもの涯にゆきにけり涯なるくにを日ねもす思ふ

雪しろの はるかに来たる川上を 見つゝおもへり。斎藤茂吉

今日の夕日はいたく重たくうす黒くビルの背後に墜ちてゆきたり

春畠に菜の葉荒びしほど過ぎて、おもかげに 師をさびしまむとす

かくばかり 世界全土にすさまじきいくさの果ては、誰か見るべき

三十年経て生々しこの家に充員召集令状を夜に携へき

放課後を纏はり来ては酸漿を鳴らす子ありきいま如何にある

空蝉の毀誉褒貶にとらわれず一日一日をじわりと生きむ

夫はたぶん知らないだろう抱きかかえるように拭きます便器というは

数ふれば二万五千日を越えてをり君にわかれしそのかの日より

白鳥は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ

しみじみとけふ降る雨はきさらぎの春のはじめの雨にあらずや

ちと一本拝借するぜ蕗の葉を傘に旦那は雨の花街

かひごぞよ帰りはてなば飛びかけり育みたてよ大鳥の神

花々が少しづつ季節をまちがへて咲き散り咲き散り濃い闇が来る

入りがたの峰の夕日にみがかれてこほれる山の雪ぞひかれる

鳥のこゑ松の嵐の音もせず山しづかなる雪の夕暮

冬山の青岸渡寺の庭にいでて風にかたむく那智の滝みゆ

嘆きつつ乳房を我に委ねたるをみなのこともいまはまぼろし

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