松村 由利子


たて笛に遠すぎる穴があつたでせう さういふ感じに何かがとほい

                                                          木下こう『体温と雨』(2014 年)

 リコーダーの音色は何だか切ない。小学校時代を思い出すからだろうか。子どもの手は小さくて、一番低い「ド」を出そうとすると、たいていの子の右手の薬指と小指は突っぱってしまう。それを「遠すぎる穴」と表現したところが何とも巧い。

そして、「さういふ感じ」が、何とははっきり言えないのだけれど、作者が感じている、ある所在なさ、つかみどころのない寂しさに似ているのだという。大切だったのに、どこかへ置いてきてしまったものがあるような……一番好きだった人に言われた大事なひとことが思い出せないような……いや、身近な人の心が今ひとつ分からない悲しみかもしれない。

形のないもの、名付けようのない感じを言葉で表すのは、本当にむずかしいものだ。詩歌は、そういうものを掬いとる美しい器である。木下こうの歌は、言葉の「あはひ」に存在する、かすかな手ざわりや微香のようなものを繊細な感覚で取りだす。この人の歌を読むとき、心がしんと静まりかえる。

慌ただしい日常のなか、ああ、自分にも「さういふ感じ」がある、と気づくとき、うれしいような、かなしいような思いがどっと押し寄せる。

 

編集部より:木下こう歌集『体温と雨』はこちら↓

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