刻みたる大根に振る粗塩に春の大地の水は寄り来る

          玉井清弘『屋嶋』(2013年)

 

厨歌はいい。特に、男性の厨歌の大らかさはいい。

この歌の作者が作ろうとしているのは、大根サラダだろうか。短冊に切った大根を少ししんなりさせるために、「粗塩」を振る。粒子の細かい精製塩ではなく、結晶の粗い塩であるのが好ましい。塩を振る手つきのよさまで目に浮かび、うっとりしてしまう。

スライサーを使ったり、細い千切りにしたりすると、塩を振った大根はくたくたになってしまうから、ここはやはり、ざっくり刻んだ感じがよい。

一首の眼目は、「春の大地の水」だろう。食品標準成分表を見ると、大根はほぼ95%が水分であることが分かる。春大根というのは2月から3月にかけて出回る大根であり、いかにも「春の大地の水」をたっぷり吸って育った感じがある。

粗塩に引きよせられて、大根からどんどん水が滲み出てくる。その豊かな潤いに、「大地」の恵みや春の到来を感じた作者のこまやかな感性が実に美しい。

毎日何かしらの野菜を刻んで調理しているのに、自分の中からこうした喜びが湧き出てこないことを寂しく省みさせられたりもする。