ゆつくりと二人でのぼる長谷寺の石段一つひとつ大切  

        大寺龍雄『草の火』(2013年)

 

「長谷寺」は、全国にいくつもあるのだが、この歌が収められている一連には「法華寺」「三輪」などの地名があるので、恐らく奈良の総本山であろう。

「ゆつくりと二人でのぼる」という、ゆるやかな韻律から、一段ずつ共に上っている光景が見えるようだ。「二人」は夫婦と読むのが一番自然である。作者がすい臓がんという重篤な病を得て、最後にまとめた歌集の中の一首であることを思うと、その滋味がいっそう深く感じられる。

考えてみれば、人生の石段も「一つひとつ」上ってゆくものではないか。若い頃なら一段とばしに大股でぐいぐいと上ってゆくことも可能だが、歳月を経れば一段ずつ、確かめるように上るしかない。

あるいは、「二人でのぼる」のは結婚生活の象徴とも読める。ありふれた日常の繰り返しが「石段」と重なる。ごく普通の一日一日こそが「大切」なのだと、この作者は嚙みしめているようだ。さりげなく詠まれたように見えるが「一つひとつ」が句跨りになっていて、読者もまた石段を上っているような心もちにされる。