阿木津英『巌(いはほ)のちから』(2007年)
目にするのも耳にするのも恐ろしいことば、「黒闇」。これはくらやみという意味だけではなく、災いの女神〈黒闇天〉をおもわせ、死の気配や死そのものを感じさせる。
妹が亡くなった。
「黒闇の垂れそめにけるおもざし」の妹。嘆く父。その二人のそばにいるわれは、いたたまれない気持ちで立ちすくんでいる。
父の嘆く姿など見たくない。けれど、わが子を喪った父の嘆きを誰にとめられようか。
「父なるものは」というすこし引いたような表現の哀しさ。
なにを哀しめばいいのかわからなくなるほど、壮絶な場面である。
父はわが父でありながら妹の父でもあったのだ、ということを茫然と見守るしかないのである。
死んでゆく感じといふを告げむとす舌とつとつと姉なるわれに
遠のいていく意識で、何かいおうとしていたのだろう。
大切な妹。父の娘。