さいかち 真


あたらしき羽織の紐のともすれば空解けすなり初冬の夜は

岡本かの子『靑煙集』(大久保春乃著『時代の風に吹かれて。』2015年刊所引)

 「衣服の歌」と副題がある本から引いた。最近私は、娘の成人式の準備のために着物を見に行って、あらためて和服の美しさに心を奪われた。海外で日本人の女性が注目されるには、和装に限るという。作家の三浦綾子が、ヨーロッパに行った時は道を横断するときに、着物姿だと自動車が停まってくれると語っていた。

掲出歌について大久保春乃は、次のように述べる。

「羽織の紐は絹の組紐でできていて、締め慣れるまでのしばらくの間は、きつく結んでおいてもゆるんでしまうことがある。空気が乾燥していればなおさらのことで…」

この解説を読んで、和装などしたことがない私はなるほど、と思う。つづけて筆者は次のように書く。

「それにしても「空どけ」という言葉はたいへん魅力的だ。単にほどけるのでも、ゆるむのでもない。「空」という語を冠することで、紐を結んだ人間の、うつろな、とりとめのない心のありさままでをも包み込むように、言葉の世界を豊かに広げている。」

過不足のない行き届いた鑑賞で、短歌についてだけではなく、近代の小説などについてもぜひ書いてもらいたい筆者である。よい書き手をわれわれは得たのではないだろうか。