松村 由利子


風を身にあつめて帰りたる夜にわれの内部に篠笛は鳴る

外塚喬『山鳩』(2015年)

 

不思議な感じのする一首である。木枯らしに吹かれ続けた一日だったのだろうか。帰宅して眠りにつこうとするときに、自らの内部にある「篠笛」の音が鳴り響いたというのだ。あたかも、自分に向かって吹きつけた風が身体のどこかに集まり、それが新たな一陣の風となって篠笛を鳴らしているようである。

「風」は実際の寒風と取ってもよいが、家を出れば出会う「七人の敵」による攻撃とも取れそうだ。どんな組織にもさまざまな軋轢があり、まとめ役を務めればいろいろな方向からの批判が一身に集まるということがあるだろう。

竹で作られた篠笛は、澄み切った音色が魅力的だ。しかし、この一首で響き渡るのは、甲高く鋭い高音域のような印象を抱く。何か悲鳴にも似たその音は、「われ」の抱える屈託や痛みから来るようで、読む者にひやりとしたものを感じさせる。

目に見えぬ風を「身にあつめて」という魅力的な表現が、想像上の「篠笛」が鳴るリアリティに結びついている。堅実な詠みぶりが印象的な作者だったが、近年はやわらかな空想を自在に広げた歌が少しずつ増え、新たな境地に向かっているようだ。