ベッド柵にローソンの袋を結わえてゴミ袋にして、ここにあなた、昨日あなたを吊ろうとしていた

田丸まひる

鯨井可菜子・山崎聡子編『短歌ホスピタル』(2015年)より

@tanka_hospital

 

まっとうな冬の明け方 切りたての腕に滲んでいる血がださい

首吊りは「縊頸[いっけい]」ふるえる字を書いて冷たくなっていくわたしの手

またねは祈り暗喩ではなくまたあした昼夜逆転していても来て

 

こうした歌をふくむ15首連作「かなしみは咀嚼できるのとか、知らない」より。田丸さんは現在、児童思春期の子どもを診察する精神科医。

極端な字余りの掲出歌では、「あなた」が繰り返されます。叙述が十全でありませんが、「あなた」が「あなた」の首を、病院のベッドの端で吊ろうとしたということでしょう。

そのように裂かれる「あなた」と向かいあう「わたし」、その関係はどんな医療行為にもあるとはいえ、精神科ではとりわけ他人でない意識の強まる時間があるのだろうと想像します。それだけにあらわな「わたし」のふるえが、長尺なのに十全でない語の運びに表れています。

編者の山崎さんが解説で「作中主体は(中略)精神病棟の『二重扉』の外側に存在する自分自身を意識しているのだろうか」と問うように、読者の関心はやはり「わたし」に向かう。短歌の生理を背負った一連です。

 

『短歌ホスピタル』は医療系出版社に勤める上記2人の編集により、医療関係者7人が現場にまつわる歌文を寄せた「1回限りの短歌雑誌」だそうです。9人全員、日ごろ作歌活動を行っています。興味深いこの企画について、明後日もつづけて読んでみます。