体重をかけながら刃を圧してゆく受け入れられて息の漏れたり

駒田晶子『光のひび』(2015年、書肆侃侃房)

 状況としては固い南瓜を切っている場面を想像すればいいだろう。包丁を当てて上から体重をかけて押しながら切ってゆく。南瓜の固い表皮はなかなか包丁の刃を受け入れないが、前後に体重を傾けて揺らしながら押していくと、あるところですっと刃が入っていく。その時にふっと溜息が漏れたという。「受け入れられて」というところが人と人との関係のようで面白い。なお、「おす」には「押す」と「圧す」の漢字があるが、この場合はやはり「圧す」の方が相応しい。

 読者の方も読みながら息を止めて思わず力が入っていくが、結句に至って作者の息にシンクロするかのようにふっと息が漏れてしまう。このように、作者と読者の気持ちや生理的反応が同調するというのも短歌の面白さの一つであろう。小説の場合は、登場人物の気持ちになれることはあっても、直接的に小説家の息遣いが伝わってくることは少ない。。

 この作品はいわゆる「厨歌」の一つであるが、考えてみると家事、特に台所仕事は沢山の短歌の素材に溢れているように思える。最近は、男性でも台所に入る人が増えているが、日常的に台所に立つ女性は沢山に歌の素材に囲まれているようで、その点では男性より有利だと思う。もっとも、こんなことを書くと、日常的に調理をする女性の苦労を知らないからだと反発を買うであろうか。

   ラ・フランス ゼリーに沈み人体の標本のようにつめたくしずか

   出力を上げて体を震わせて飛行機はいま本気となりぬ

   子の下着ばかりを畳む三人の子あれば三つの異なるサイズ