江戸 雪


立つと……あなたの背中どこまでも伸びてゆくように他人ね。

玲はる名『たった今覚えたものを』(2001年)

ベンチに並んでいたのだろうか。電車のなか、それとも公園?
いや、レストランで食事をしていたのかもしれない。
坐って、すぐそばで話して笑っていた「あなた」。なんとなくいつもより親しく近くなれたような気がしていた。
けれど、ふと立ちあがって歩き出した瞬間。
……。

初句の「立つと……」はそんな場面として読んだ。
立って歩いている「あなた」をみていると、さっきまでの気持ちとはうってかわって、「あなた」は、わたしではない、たしかな「他人」だと強く意識する。
すいっと伸びた背骨。自分より背が高い「あなた」を、いっしゅんにしてよそよそしく感じてしまうのだ。
こんなふうにすこし見る角度や距離がかわるだけで、こいびとがふいっとどこかに行ってしまいそうにおもえるときがある。
それも離れたくないという気持ちの裏返し。
結句の「他人ね」は、すこしドライな表現だが、不安な気持ちのあらわれでもあるようにおもう。

わたしには必要でした 水道の水がスーツを着たような人

こんな歌もあって、前の歌とあわせて読んでみると、ひょろっと背が高く清潔感があってかんたんに傷ついてしまいそうな男子を想像する。そして、なぜか母性本能をくすぐられてちょっと惹かれる。
今でいう、草ばかり食べているような、草食系の男子ということか。