水上芙季『水底の月』
(2016年、柊書房)
そういえば2014年の春に郵便料金が値上げしたのでした。葉書は50円から52円に、封書は80円から82円に。
手持ちの50円・80円切手に足して貼れるよう、2円切手が復活し、あらたにエゾユキウサギの絵柄にリニューアルされました。安いしかわいいので、多めに買い込みましたが、その後52円や82円の新しいデザイン切手もつい買ってしまい、2円切手がけっこう手もとに残っています。
というのは私の話ですが、水上さんも同じように2円切手を余らせているのでしょうか。
なんだか、ウサギの愛らしさに騙された気がするなあ。
そもそも、郵便料金が上がったのは消費税が上がったからで、さらに10パーセントへの増税が予定されている以上、その是非や税の使途について考えるべきところです。
しかしその後の思考は、短歌の表現の幅を超えてしまいます。思考の入り口として、短歌が伝えて来る〈だまされてゐる〉気分を、読者は共有することになります。
作者は厚生労働省の非常勤職員。働く三十代の女性として、クレームに対応したり、ふと恋人がほしいと思ったりの日常を、生き生きと描きます。
乱丁本買つてしまつただけどまあ困ることなしわが子になりな
美しい金環日食あつた日も殺人事件はふつうに起きた
乱丁本は、その気なら取り替えてもらえるはずですが、ウサギの切手と同じく、手もとにやってきたものに縁を感じているのでしょう。
心やさしい〈もやもや〉です。