足を引く老[おい]が乗り込む夕暮のバス停に光の函[はこ]を見送る

柳 宣宏『短歌エッセイ カジン先生のじかん』

(2013年、みくに出版)

 

エッセイ+短歌の本より。書名と上の歌から、詩人の平田俊子さんのエッセイ集『スバらしきバス』(幻戯書房)を連想しました。

短歌は、一瞬というより、ある短い経緯を描写する詩形だと思っているので、ああ「カジン」は「じかん」でできているんだなと。

で、この本は教師である著者がおもに十代の読者に向けて書いた体裁をとっており、幼いころ、このごろ、および短歌をめぐるあれこれの三部構成。軽装ながら紙とインクの色が途中で変わったりして、おしゃれです。

既刊歌集からの引用歌と付け合わせたエッセイも多いのですが、この歌は推敲過程が記されているのがおもしろい。

 

足を引く老[おい]が車内に乗り込みし眩いばかりのバスは出で立つ

 

から始まり、作者の立ち位置があいまいだったのを〈バス停に~見送る〉で確定しました。〈光の函〉というフレーズの発見、〈乗り込む〉という現在形への変更も臨場感を増しています。

こうした過程の記述の前後に、映画『卒業』のラストシーンの長距離バス、作者が療養中の父に見送られながら乗ったバス、アニメーション『となりのトトロ』のネコ(猫)バスの話が、それぞれちょっと切なく挟まれます。

ネコバスが幼い姉妹を母の入院先へ運んだように、老人も〈光の函〉に守られてぶじ帰宅できますように、という歌です。

作者は「おわりに」で、「短歌に調べがあるように、エッセーにもリズムが必要なことがわかってきました」と述べています。