家々はリースをドアに飾りつつ兵士がやがて帰り来むドア

中津昌子『芝の雨』(2009年)

「リース」はクリスマスなどに扉に吊るす花輪。蔓でつくった丸い土台に木の実や花や葉を飾る。12月になると、欧米ではあちこちの扉がリースで飾られる。

いちど山から蔓を拾ってきて、クリスマス用に作ったことがある。なんとなく豊かな気持ちになり、幸運がやってくるような気がした。
作るときもそうだが、「リース」を飾ると玄関が華やぎ、祝祭の空気を呼びよせる気がする。
クリスマスにかぎらず、扉にリースを飾るのは、なにかを待っているサインなのかもしれない。

けれど、この歌の扉に飾っている「リース」はさびしい。ひっそりと静まりかえっているようでさえある。
それは「兵士」が、つまりはその家の大切な誰かが、戦いの場から無事帰ることを待っている扉だから。

そのような視線を扉いちまいいちまいにむけること。
それは、平和への視線であり、同時に他者へのあたたかなイマジネーションだとおもう。
戦争に行っている家族を待つひとがきっと誰のそばにもいるのだ。
いちまいの「リース」を飾る扉が、ひとびとの葛藤をそっとみえなくしている。

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