吉田奈津「草原とループ」
外大短歌会発行『外大短歌 第7号』(2016年)より
ことしも年間回顧の時期になりました。角川『短歌年鑑』でははじめて「大学短歌会誌上歌会」の特集を組んでいます。
かつては早大と京大が東西の雄であり果たし状(?)を送りあっていた、みたいな話をベテラン歌人の方からうかがいましたが、オンライン・オフラインを併用する気楽な交流が可能になるにつれて、個性ある大学短歌会が増えてきました。
東京外国語大学のサークル誌『外大短歌』は、ひとくくりにはできませんが、奇妙な翻訳小説(岸本佐知子さんなどの編訳書にあるような)ふうの歌が多く、へんてこな気分になります。
掲出歌はなんといっても〈人力車〉が変。
はじめから読んでみましょう。〈よろこびが引いていく〉は、たんに興奮が冷めてゆくさまなのか、もっと強い失望感なのかわかりませんが、誰もが体験しうる感情の推移です。
〈湖面〉は、感情の波、水位といった常套句から引きだされた、実景の想像をともなう心象。
そこから何かが現れるというだけでも目を引かれるうえ、それが水棲動物や舟などではなく人力車というところに時代的・場所的な錯誤のおかしみがあります。
引いている人、乗っている人はいるのでしょうか。自走式人力車が単体で語り手を迎えにきた図が浮かびますが。
感情のゆくえを地続きの悲しみや怒りではない、SF的想像へとずらした点に明確な手法意識を感じます。
他にも愉快だったり悪趣味だったりする歌が満載ですが、以下、OB・OGの作品をすこし引いておきます。
レタスいっぱいにくすくす溢れだす彼女の孫を覚えきれない 木村 友
やさしいと涙が出るねきみのこと薬箱にはしたくないのに 黒井いずみ
大切のことありたればこの宵のステーキはウェルダンを頼みぬ 三井 修