中津 昌子


上官でありし男の死を聞いて一人笑いをしている父は

藤島秀憲『二丁目通信』(2009年)

 

お父さんは戦争に行った経験がある。

ここでの「一人笑い」の複雑な味を知るには、この歌集に描かれているお父さんの姿をもう少し知る必要があるだろう。

同じく笑いの歌をもう一首。

 

・スイッチの場所を忘れている父が黒い画面を見ながら笑う

 

高齢のお父さんは少しあやしくなっている。「黒い画面」に向かう笑いも、場面以上のものを思わせるが、冒頭の「一人笑い」は、父のこの状態を考えるとき、深度を増してくる。

 

「上官」といえば、戦争を知らない世代であっても、おそろしい、と思う。お父さんは上官にどんなことをされたのか、と思って、父はもう必ずしも正気ではないことを思う。

 

これは、いったい、上官のかつての何かに報いる笑いなのか、それともその死は、人生そのもの、一切合財にむける笑いを引き起こしたのか、そして、それらはどこまでが意識されてのことなのか。あるいは、父はまったく何も考えていないのか。

 

笑いの深淵はどこまでもひろがる。