増田静『ぴりんぱらん』(BookPark:2003年)
◆ 靴下はなんのために (1)
君を見ているとなんだか靴下が脱ぎたくなってきて困る――と言われても読み手のこちらも困ってしまう。靴下を脱ぎたい理由も、困ることに対する具体的な対処も分からないという一瞬の間が一字空けとして表現され、その次の瞬間には自ら靴下を脱ぐことを宣言する。
どう考えても、「君」のことが好きなのだろう。服を脱ぐような直接的なものではない、どこかあっけらかんとした性愛をも感じさせる。その一方で、赤面したり心臓がどきどきしたりするようなありきたりではない反応に妙な実感がある。根本的な解決のようでいて、何も解決していないような「脱ぐね」が印象深い。
歌集題、および、この歌を収める連作題の「ぴりんぱらん」は沖縄の言葉で「おしゃべりするさま、外国語をしゃべるようす。」と説明がなされている。そこから分かるように、舞台は沖縄である。一首の季節や場所は分からないけれど、おおかたの季節はサンダルで過ごせ、座敷スタイルの飲食店も多い。照りつく太陽を思えば、靴下をはかないほうがむしろ自然なことのように思えてくる。裸足になった瞬間に訪れるすっとした涼感と、裸足になった分だけ広がるような感覚のなかで、「君」はいっそう強く意識される。
歌集には掲出歌以外にも、裸足や足の裏の感触が伝わってくる歌が目を引く。増田静の歌の大きな特徴と言えるかもしれない。
しきつめた眼鏡はだしで踏んでいく生きてることを試されていた 「ブラインドタッチ」足のつく場所じゃないけど泳ぐのをやめて苦しい太陽を見る 「ぴりんぱらん」君の選ぶパンは固いね サムライの足の裏とか思いうかべて 「もずく工場」雨の日は限りなく道草をするかたつむり達しゃりしゃり踏んで 「赤い本」
さて、気になる人を意識して思わず靴下を脱ぐような、そんな変わった人は他にいるだろうか。
それがなんと、いるのである――
(☞次回、1月23日(月)「靴下はなんのために (2)」へと続く)