提案に補足がありてみづみづしかる截り口は見えなくなりつ

篠弘『東京人』(2009年)

 

会議の場面。案が出される。

それはなかなか斬新なものであったようだ。さらにそこへ補足をつけようということになる。するとどうだろう。まるで贅肉がつくように、最初の感じが色あせてゆく。

この歌は、「平成十八年の五月十五日、日本ペンクラブは『共謀罪』に反対し、廃案を求める声明を出す。(略)」と最初に付された一連のなかにある。

 

・テロ防ぐためと覚しき共謀罪発端からを目つむりて聞く
・強制をせぬと躱(かは)して通したりし国旗国歌法に教師ら裁(さば)かる

・声明を出したるのちにこれ以上政治への参与を否(いな)む人あり
・特高の怖さを忘れ「検閲」をゆるしかねなきこの世紀首に

 
こういった歌をふくめて連作は、複雑な問題を多く含む討議の移りゆき、そしてその雰囲気のみならず、裏で動くさまざまな心までを写しとり、ダイナミックに展開する。歌を一首だけではなく、複数の作品として読む醍醐味がある。

 

一方で、冒頭の歌は連作を離れる時、もう少し普遍的なものとしても味わえる。何につけ、妙に慎重になり、補っているうちに、せっかくのものを台無しにしてしまう、ということは、往々にしてあることであり、身に遠いことではない。

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