教室を飛び出したTを追いかける 「t」の横棒みたいに翔んで

千葉聡『そこにある光と傷と忘れ物』(2003)

 

 アルファベットの t の横棒(バー)のように地面と平行になりながら、教師が生徒を追いかける。

 その躍動感・疾走感は、千葉の歌すべてに通じる美質である。

 

 漫画では、空中に浮かんだセリフの文字が崩れ落ちたり、文字が相手に当たったりする。そういう発想と近いようだ。

 廊下は細長い管であるから、なおさら横棒という発想が生きる。

 当時、中学の教員であった(今は高校に移ったと聞いた)作者。なにかのきっかけで教室から駆け出た生徒を追いかけた。それは、テレビドラマ的な熱血教師のイメージが重なって、少々気恥づかしい。

 それを敢えてそのままにしたのも千葉の良さである。

 

 10代の若さに負けない30代(当時)の若い国語教師との追いかけっこ。まだまだ体力があり、教室を飛び出すほどありあまるパワーがある(そして鬱屈した何かを抱える)生徒を捕まえるという使命感がある。

 自分が漫画やドラマの中の人物のような劇的な存在に思えたのかもしれない。一瞬をよくとらえて気持ちのいい歌である。

 

・「おはよう」に応えて「おう」と言うようになった生徒を「おう君」と呼ぶ

・居眠りを注意されると「念力で地球を回してました」と笑う

・S君を殴って逃げた子をさがす放課後の廊下、廊下、廊下

など、学校生活を活写した作品はどれもいい。

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