安永蕗子『天窓』(2009)
風が軽快に吹き抜けるリズムを感じる歌だ。
なんでもないところに詩を見る、まさに円熟の境地でもある。
風が走り抜けるとき、山の木々の葉が揺れ、あるいは幹が揺れ、山全体が命あるものとして揺れる。
ススキもまたその柔軟な穂や茎を揺れるに任せる。
そういう自然の営みを見ていると、一瞬、言葉を忘れたような感じになることはないだろうか。草木の自然な動きに、まづは自分の五感が反応し、そのまま(言葉を忘れて)受け入れてしまうような感覚。
人間であるわれわれは、一瞬のあとわれにかえって、言葉でその状況を認知しようと、脳が動く。
作者は、なんどもタイムラグなしに現象と言葉をつなげようと試みた。しかし、いつも風が一瞬早く走り去ってしまう。ちょっと悔しいのかもしれない。
風というものと一対一になりながら、自然の大きさに敬服をしている作者像が見えてくる。