大松 達知


アーガイル模様の母音ひびきだす北へと向かうバスに乗るとき

                              『極圏の光』中沢直人(2009)

 

 「アーガイル」は、もともとはスコットランドのタータンチェックのひとつ。ある名門の家の柄であったらしい。いまでは、ダイアモンド型のチェック柄を指す。セーターなどで使われている、あの菱形の柄である。

 

 この歌を含む一連の題は「グラスミアの夜明け」。グラスミアという湖水地方の町は、まだイングランドだが、アーガイル柄の故郷と近い。

 そのあたりからの発想だろう。

 イギリス英語は、アメリカ英語よりももっと喉の奥から、こもるような音を出す。北の地方は訛りもあろうし、その母音はもっと重厚に聞こえる。「北へと向かう」が効いているところだ。

 石の街である、このあたりの質実さの雰囲気も感じられる。

 

 だが、この歌はすこし強引で、だれの口からその母音が出たのか確定しない。

 「バスに乗るとき」とあるから、バスの運転手さんの声だと解釈したい。あいさつを交わしたのか、行き先を確認したのか。一瞬ひびいた声が、いかにもその地域を感じさせる深いものだったのだ。

 音声学では、口の中のどのあたりで発音しているか、という四角形の図をよく使う。それはなんとなく、空間の奥行きを感じさせるアーガイル模様に似ていなくもない。

 不思議な形容によって、異国をゆきつつ、現実を少し浮き上がったような感覚も出している歌である。