辺見じゅん『雪の座』(1976年)
滴するような闇というのは、陶酔感をさそう表現だ。漆黒の闇は、そのなかにあるものをしっとりと包むのだろう。
「骨を解」く、も珍しいものいいだが、体の芯からゆるめる感じが伝わってくる。
「冬の韻き」は、なんだろう。読む人それぞれに想像のひろげられるところだが、必ずしも音を思わなくてもいいのだろう。しかしその土地の声のようなもの。
ここでは人間もけものの一部だ。
命あるものとそれを包むものが、調和し、そして底から落ち着いている。
こういう土台のしっかりした安心感から、人間はずいぶん離れてしまったことを思う。
この一首のなかに遺っているものを味わうとき、今を生きる多くの人たちがゆえしらず不安であることも至極もっともなことだと思う。