生沼義朗


池田はるみ/マンションはガーゼ巻かれて建ちをれば風にかすかな窓明りあり

池田はるみ『ガーゼ』(砂子屋書房・2001年)
※『ガーゼ』は砂子屋書房の現代短歌文庫115『池田はるみ歌集』に一部収録されている。


 

池田はるみの第三歌集『ガーゼ』巻頭の一連「ガーゼ」2首の2首目。表題歌でもある。なお1首目は

 

マンションの深き疲れを癒(いや)すべく高き足場(あしば)が組まれてゆけり

 

という歌で、ここは同時に見てゆきたい。

 

描かれているのは工事中のマンションだ。「ガーゼ」は建設現場や工事現場で建物を覆っている青や緑や灰色の網目状のシートで、ストロングメッシュシート、飛散防止ネット、防炎シートなどいろいろな商品名があるが、いわゆる養生幕とか養生シートと呼ばれるものの喩である。最近はここに建設会社や工事会社のロゴや広告が大きく印刷されていることも多い。ガーゼに喩えたということは、白色の養生幕だったと思われる。

 

下句の「風にかすかな窓明りあり」は、風に揺れている養生幕に、マンションの窓の明かりが反映している様と読んだ。つまり人が現住しているマンションであり、新築物件ではない。さらに前の歌とあわせて読むと、ある程度以上築年数の経ったマンションの修繕工事とわかってくる。はっきり書かれていないが、「ガーゼ巻かれて建ちをれば」の「巻かれて」や、前の歌の「高き足場」という表現は、修繕が小規模ではなく大規模であり、それこそマンションをすっぽりと包み込んでいるような養生幕を想像させる。作中主体自身が住んでいるマンション、特に建物の外側から窓の明かりを詠んだ歌は多いが、こうした視点の歌はあまり覚えがない。

 

もう片方の歌にも触れておきたい。意味は一読わかりやすいが、「深き疲れ」と「高き足場」のふたつの言葉に注目した。形容詞+名詞の組み合わせは慣用表現的な印象を生みやすいため成功しにくいことがままある。特に「深き疲れ」は、言葉単体で見ればたしかに平板な印象はなくはない。だが1首目はどちらかというと状況を説明している歌なので、ここは効果的に働いている。韻律的にも、二句と四句の二箇所に同じ構造の言葉を敢えて配置することで韻律の流れがせき止められ、一首のアクセントになっている。

 

今回紹介した2首に限らず、池田の歌は対象へのやさしさに満ちている。養生幕をガーゼに喩えた見立てにもそれは端的に表れている。そのやさしさが対象を見尽くし、対象に惜しみなく愛を注ぐ姿勢につながっている。その愛が批評を含んだ、やわらかでしたたかな表現を産んでいるのである。