生沼 義朗


白川ユウコ/OKのかたちのままに道の上に白い手袋が死んでいる

白川ユウコ『乙女ノ本懐』(六花書林・2015年)


 

白川ユウコは「コスモス」「COCOON」所属。『乙女ノ本懐』は、1995(平成7)年以来の歌歴を持つ白川の16年ぶりの第2歌集である。第1歌集『制服少女三十景』(フーコー・1999年)に収められた歌以後の1998(平成10)年から2013(平成25)年まで、年齢では21歳から36歳までの398首を収める。「二〇一三年の結婚を機に、まるで亡命を遂げたかのように生活が一変したので、それ以前の小娘時代の述懐を第二歌集『乙女ノ本懐』とし、一冊に纏めました。」とあとがきにある。

 

 

しあわせになりたいですとその口で言ってくださいお茶を淹れます
きみ生きよわれより長くわがために生きてうつくしき挽歌を賜え
若さとは武器だと思う美しく殺傷能力高い武器だと
ヴァージニア・ウルフのようにうつくしく解離なすべしおみなごたれば
年明けの浅間神社(せんげんじんじゃ)の絵馬にあり「妻を正常にして下さい」と

 

 

先に少し挙げたなかにもその片鱗は見られるが、『乙女ノ本懐』のあとがきは独特の言語センスと物事の本質を見抜く鋭さが光り、歌にも同様の特性を湛えている。一見屈折した歌のように見えるが、白川の特性がプリズムのように対象を分散させたり屈折させたり反射させたりしているのである。

 

口語が多用されるが、短歌の文体としては非常にオーソドックスだ。最初から口語で発想して構築される口語短歌とは違い、あくまで伝統的な短歌の器の中に口語を随所に駆使しつつ作品が組み立てられている。事物の見方や切り取り方、言葉の構築の仕方が短歌的と言えばよいか。これは褒め言葉で、こうした歌の作り方を自分は信頼する。年齢も歌を始めた時期も自分に近いのでよくわかるのだが、これは短歌を始めた年代(年齢ではない)の影響が大きい。

 

モチーフとしては恋の歌が目立つ印象だが、白川の歌にはどれも世界に対する愛があふれている。愛にあふれる姿勢は愛を求める姿勢でもある。その愛がもっともストレートに出たのが恋の歌だ。

 

掲出歌の「OKのかたち」は、親指と人差し指で丸印を作っている図と読んだ。白い手袋が道に落ちている光景を「道の上に白い手袋が死んでいる」としたところに異化がある。もちろんこれは負のベクトルに働く異化である。同時にかすかなシニカルさやニヒルさも感じるが、これは愛の表出の一形態だ。

 

あとがきに「被害届なんて書きたくありません。何かを否定することで新しい何かを創り出していると勘違いしている人間の多い今の世の中、私だって気に入らないことばかりですが、この歌集を以て「否定」ではなく「回答」とさせていただきます」とあるが、ここにも白川の世界への愛を感じずにはいられない。

 

歌集題『乙女ノ本懐』の「本懐」は、本意や本望、本来の希望・願いといった意味がある。本懐は、「男子の本懐」などと言われる通り、元来は男性、特に軍人が使う言葉だったようだ。白川が歌集題を『乙女ノ本懐』としたのは、価値観の逆転や男性への対抗心などではない。まさに決意表明であり、世界への愛の表明の象徴でもあるのだ。