江戸 雪


銜(くは)へ来し小枝はくちばしより落ちぬ改札を抜け君に笑むとき

栗木京子『けむり水晶』(2006年)

誰かと駅の改札口で待ち合わせをしている。列車を降りて改札を通り抜ける。胸がたかなる。

携帯電話を持つようになってからの約束はたとえば、〈午後1時に阪急宝塚駅の北改札で〉ではなくて、〈午後1時頃に阪急宝塚駅、着いたら電話〉である。
便利になったけれど、〈その場所〉で〈その時間〉にいるだろう自分や君を思い描きながら逢いに行くということがなくなった。
そうすると、二人がおちあう瞬間の場面を想像したり夢見たりすることが減る。
ちょっとしたことなのだが、君との様々な場面を思い描くということも、豊かな時間だとおもうわたしはなんとなくさびしい。

この歌は、とても素敵なシーン。
すこし完璧すぎるか、いや、自己陶酔にも似た〈夢〉に徹しているところがいいのだ。

改札を通り抜けたしゅんかん、雑踏のなかに君の顔がみえた。
銜えてきた小枝のことなんて忘れておもわず微笑む。
風の吹く道。小枝が落ちている。
逢えた喜びを胸に、ふたりが飛びたつ空は澄みきっている。