きまかせに七羽はうごく刻々と水のおもての景かへながら

近藤かすみ     『花折断層』    現代短歌社・2019年

冬を迎えた鴨川にはたくさんの渡り鳥が飛来する。川岸を歩いていて、足を止めたくなるのはちいさなカイツブリの群れ。堰のちかく、あるいは中洲の近くに集まって楽しげに水遊びしている。薄い陽の揺れる川面をひといきに水鳥が滑ってゆくときの弾ける水面のきらめき。この歌を詠んでいると、そんな鴨川のあかるい水辺の光景がきらきらと目に浮かぶ。

歌を読む。きまかせに、という特に意味をもたせない入り方がうまい、自然に生き物のうごきに視線がよりそってゆく。そしてそれを楽しむこころの余裕が鳥を動かしているようにも思える。「七羽はうごく」との言い切りかたもすがすがしい。七羽という数は適切で、その場面をひきたてる喚起力がある。そして下句のくっきりとした造型的な描写へとなだらかに接続している。目立たないが細やかな言葉の斡旋がある

この歌に見るように、作者は川に遊ぶ鳥たちをただ見て、言葉のなかで遊ばせている。そこに湿っぽい心情を被せて訴えたりはしない。この歌が心地よいのは言葉のテンションが抑えられて、対象との適度な距離感があるからだろう。そこに読むものの想像力をさそいこむような空気感が保たれているようだ。表出する言葉に無理な力がかかっていない。押しつけがましくなりがちな情感もさらりと削いでいる。ただ、鳥のうごきだけを追いながら磨き込むように描写している。そこに清潔な抒情性が生まれるのだろう。

この歌集のページを繰るたびに、市井のしずかなたたずまいをこまやかに詠む歌に次々と出会う。そこには鴨川を中心にした京都の町並があり、そこでの人々のささやかな暮らしが季節のなかで営まれている。

バスに乗り百万遍に来てみればあはれパチンコ〈モナコ〉はあらず

やわらかな文語体と、鍛錬された修辞、適切にさしこまれた虚詞がなめらかな韻律を練り上げている。しめやかな暮らしの情感、あるいは、歌集にながれる寂寥感がすぎゆく歳月にふくらみを持たせて心にのこる。