くらがりになほ闇やみと呼ぶぬばたまの生きものが居て芝の上へうごく

岡井隆『歳月の贈物』(国文社:1978年)

 闇が生き物であってもいっこうにかまわない。闇に紛れて小さな生き物が動いていてもよいのだが、闇そのものを動物図鑑に記載したい気持ちもある。ここにあらわれる闇はなんとなく湿り気を感じさせて、サンショウウオのような両棲類に位置付けたくなる。芝の上にはぬらぬら、ねばねば、「ぬばたま」の粘液が残り、闇ゆえになおいっそう妖しい光をはなっていてほしい。
「くらがりになほ」というのだから他の生き物を排除した上でなお闇が息づいているようで、闇がどこまでも生々しい。闇が「うごく」、その動きかたはできれば緩慢であってほしいが、あるいは思いの外に敏捷であっても趣があるかも知れない。闇がときにエロティックなのは交合を隠しているからではなく、闇そのものが生きているからなのだとふと気付かされる。