人も馬も道ゆきつかれ死ににけり。旅寝かさなるほどのかそけさ

釈迢空『釈迢空歌集』(岩波文庫:2010年)

  手許にある岩波文庫の表紙には釈迢空の手蹟で「人毛馬母道逝疲死去来」と写真版が出ているのが見える。この歌のなかでは道は「逝く」ものだし、死は「去来」としてあらわれるというのが、字の選択にうかがえるようで、万葉については何らの素養もない自分にも一首に盛られた深い哀れの心が、いつにも増して感じられるような字面である。

もっとも万葉のころには当然ながら「。」はないので、死ににけり。というときの不気味な静けさというものは漢字で書かれてしまうと消えていく。釈迢空の歌を読んでいると、たとえば音読されることを前提にした記号のようなものに過ぎないはずの句読点が、文字ないし記号としてそこに印刷されているだけで、深い沈黙に読み手を引きずり込んでいくような恐ろしさを感じることがある。きっとその「。」の先には踏みしだかれた葛の花が色あざやかに、人と馬の折り重なる死体を染めていることだろう。