光透く翅をひろげし夜の蛾が我が臥す上を過ぎしときのま

『相良宏歌集』(引用は『現代短歌大系11』三一書房:1973年)

 我と光源とのあいだに蛾がいる、その位置関係が好もしい。療養所の電灯と寝そべった我とのあいだに翅のうすい蛾がなにかを暗示するように飛んでくる。そのあまりに薄い翅からは電灯の光が透けて我にまで落ちてくる。

「ときのま」とあるから一瞬の情景を写し取ったものなのだろうが、あまりに精緻であるためにどこかフィクションめいて、と言って悪ければ寓意や象徴にまで高められているように読まれる。とはいえ蛾のうすい翅とはかない命、とまで言ってしまうのはきっと言い過ぎで、ただわびしい夜の翅を透かした電灯の弱々しい光を感じながら、そこに何かの気配を見てとる程度におさえておくのが良いのだろう。