吉田 隼人


水面にかへる刹那の水しぶき激しく消えしものを見たりき

 小野茂樹『羊雲離散』(引用は『現代短歌大系11』三一書房:1973年による)

 

最初は「激しく消えしもの」はプールかなにかに飛び込んだ、水泳や飛び込みの競技者をさすのだろうと思っていたが、「かへる」の一語に妙に引っかかってしまう。最初「はねかへる」水しぶきのことかと思ったが、「刹那」にかかるのだとすると意味が違ってくる。別にカエルを詠んだ歌だとは思わないが、「かへる刹那」というから、もともと水の中にいたものが水中へと帰っていく様ということになる。人間だって水から生まれて水に帰っていくものだといえなくもないだろうし、あるいは川や池で魚が跳ねただけかも知れない。

しかし「激しく」の一語が、連体形ゆえに「水しぶき」と「消えしもの」の両方にっかっているためか、よりいっそう水しぶきの勢いが増すようで、ちょっとした生き物では済まされないような気がしてしまう。これは自分の勝手な読みだが、ほんの一瞬だけ、カメラに収めることすらできないほんの一瞬、ロッホ・ネスの怪物のような巨大な水棲生物を目にしたのだとすら感じられてしまう。──まあそれはこちらの趣味に寄せすぎた勝手な深読みだろうが、それくらいの不穏なものを感じさせる詠みぶりであるには違いない。何でもないことが不気味な相貌を帯びるのもまた、歌がもたらす言葉の魔術であった。