孵卵器の卵くるしげに歪むころ不潔な神話世に流布しだす

杉原一司(引用は『現代短歌大系11』三一書房:1973年による)

 卵を機械にかけて孵らせようとするのはそれだけで不気味ではある。その卵が苦しげに歪むのだという。卵なのだから卵形をしているはずが、きっと硬い殻に覆われているはずが、苦しげに、身をよじるように、歪んでゆく。卵はそのまま世界の象徴たりえるかも知れない。

そこで流布するのが「不潔な」神話である。不吉ではない。不潔なのである。卵にとって不潔は禁物だろう。しかし世はおかまいなしに神話を流布させていく。流布しだせば神話は止まらない。卵は相変わらず、母体から離れた孵卵器のなかで苦しげに歪んでいる。不潔な神話があふれてやまないこの世のなかで。