志賀の浦梢にかよふ松風は氷に残るさざなみの声

藤原良経(引用は塚本邦雄『雪月花』読売新聞社、1976年による。旧字は新字に置き換えた)

 氷に残るさざなみの声、という繊細さが歌の眼目と言える。さざなみがさざなみのまま凍っているのを、氷にさざなみの声が残っている、と捉える視点が、表現力が素晴らしい。そのさざなみは松風が起こしたもので、そう思うと何か冷たい中にも薫るものがあるようでもある。

梢に通う松風が、その薫りをたたえながら海にさざなみを巻き起こし、薫りもそのままにさざなみは寒さに凍る。そこにはさざなみがまださざなみであった頃の声もまたそのままに凍っている。