今朝のあさの露ひやびやと秋草や總べて幽けき寂滅ほろびの光

伊藤左千夫(引用は『伊藤左千夫歌集』岩波文庫、1980年による)

 けさのあさの、と意味的には重複するがリズムを作る出だしから、読むものは露が冷たく光る秋の草原へと導かれる。その無数の粒の全てが、かそけきほろびの光だというのだからただごとではない。

露に命のはかなさを見る和歌的な伝統と重なり合って、寂滅という強い言葉に説得力が生まれている。大らかな詠みぶりの印象がある左千夫だが、かくも繊細でともすれば厭世的とすらとれる一首のあることに、初読時大いに驚いた記憶がある。