水に卵うむ蜉蝣よわれにまだ惡なさむための半生がある

塚本邦雄(『装飾樂句カデンツァ』、引用は『塚本邦雄全歌集 文庫版〈第1巻〉』短歌研究社:2018年による)

 われにまだ悪なさむための半生がある、勇気づけられるようなフレーズである。

水に卵を産むカゲロウは幼虫の時代が長く、成虫になってからは一晩で交尾と産卵を終えて死ぬような生き物である。しかしその短い生涯に賭ける命の輝きが凄まじい。大量のカゲロウが羽化して一斉に交尾のため飛行して視界を奪うほかにも死骸の油で道が滑って危険なことから、故郷の阿武隈川には「カゲロー注意!」の看板が掛かった橋があった。

カゲロウの最後の飛行のように、わたしにもまだ「悪」をなすための半生が残されている。自分がなすべき「悪」とはなんであろうか。生き方を問いかけるような一首である。