君はしゃがんで胸にひとつの生きて死ぬ桜の存在をほのめかす

堂園昌彦『やがて秋茄子へと到る』(港の人:2013年)

桜は胸の中にある。胸の中に、一輪なのか、一樹なのかはわからないが、胸のなかに確かに存在している。きみはその存在をただほのめかす。

生きて死ぬその存在を誇示することなく、ただほのめかす。ほのめかされた側はきっとうろたえる。胸のなかに桜がひとつ、確かに存在していることに。そして胸のなかで息づいて、生きて死ぬことわりを経ていることに。

体内にあるはずのないものが量感をもって存在してしまう独特の表現と、生きること死ぬことへの省察はこの作者の特徴でもある。生きて死ぬこの世のことわりに深く切り結んでいることがうかがえる。