東京を見に来いと人の言ひくれどオブローモフに心寄りゆく

杉浦明平(引用は岡井隆『ぼくの交遊録』春風社:2005年による)

オブローモフはロシアの小説の主人公で、やる気なくベッドに寝そべっているだけの青年貴族である。オブローモフ主義、なんて言葉もあったはずだ。

戦後、変わりゆく、復興してゆく、あるいは戦災に遭った東京を見に来いと人は言ってくれる。好奇心旺盛なわたしはきっと面白がるだろうと思って言ってくれているのだろうが、しかしわたしは怠惰なオブローモフのほうに気持ちが傾いている。

今まさにオブローモフのような暮らしを送っている者としては、採らずにはいられない一首であった。コロナ禍で変わってしまった東京の風景を見に来いと言われても、あるいは外出しなければならない用事があっても、オブローモフの徒としては寝床に横たわっていたいのである。