北川草子『シチュー鍋の天使』(引用は『短歌タイムカプセル』書肆侃侃房:2018年)
目薬がさせない。去年くらいから克服すべく努力するようになったが、今も心許ない。そのせいか目薬という言葉にすら何とはなしに恐怖心を感じてしまう。眼球に直接異物を投入するというのが恐ろしいのだ。視力を一時的にせよ奪われるのが恐ろしいのかも知れない。
目薬をさすと一時的にせよ視力が奪われる。その目薬の成分表を読み上げているうちに消灯される。消灯と目薬によって奪われる視力とがここで重なる。たとえそれがゆるやかな消灯であっても、否むしろゆるやかな消灯であればこそ恐ろしい。やわらかでおだやかな歌なのだろうが、自分にはどうしてもどこか恐ろしいものを孕んだ歌に読めてしまう。