永井 祐


いまベイブをえらんで借りてゆく人の凜々しかったな 真似して歩く

はだし「田中くんのこと」(「なんたる星」2015年7月号)

 

好きな歌です。
TSUTAYAとかゲオとかのレンタルビデオショップでのことですかね。
「レンタルビデオショップ」という言い方自体がだいぶ古く、特にここ数年で映像は配信がすっかり主流になり、この歌みたいな、お、この人これをすっと借りていったな、みたいなシーンはだいぶ減っているのかもしれない。
逆に、以前は人は棚からぐっとつかんでコンテンツをレジに持っていっていたんだな、というようなことも思いました。

その人の選んだものは「ベイブ」。
「ベイブ」は1995年のオーストラリア・アメリカ合作の映画。子豚のベイブが立派な牧羊豚を目指すハートフル・コメディというような作品です。
この歌においてはこの「ベイブ」が圧倒的にいいと思います。
「ベイブ」を一本すっと選び出し、凜々しく借りていく人はとても魅力的に思えます。
タルコフスキーとかだとだめですね。ゴダール、もちろんだめ。「パラサイト」、普通の人。スターウォーズでもちょっと違うのかも。韓流ドラマでもな・・。
ほとんどわたしの偏見みたいなことですけど、たぶん「凜々しい」という形容詞と「ベイブ」の組み合わせがいいのかなと思います。

カジュアルな歌ですが、細部もいいと思います。
「いまベイブを」は6音で初句が字余り、ここでちょっと引っかかりがある。
「えらんで借りてゆく人の」となめらかに続く。「えらんで借りてゆく」はけっこう丁寧な言い方で、説明的にはきっとはしょれるけど、棚から選び出してレジまで歩いていく一連の流れを浮かばせるところだと思います。
ちなみに「えらんで」が平仮名に開かれてるのもいい気がします。ついでに「借りていく」でなく「ゆく」なのも、その人の雰囲気を思わせます。
「ゆく人の凜々しかったな」はややイレギュラーな言い方になるのかな。「ゆく人は」ではない。「ゆく人の」で続きそうになりながら三句で気分的に切れて、「凜々しかったな」と見ていた人の思いのほうに切り替わる。

そして一字空けがあって、「真似して歩く」。
たぶん「ベイブ」もよかったけど、その歩き方、レジへの持っていき方や出て行き方がよかったんですよね。
こどものように、魅力的な人の真似をして歩いてみる。

気分の流れと音韻的な抑揚がなめらかに通っていて、優れた歌だと思います。