久我 田鶴子


連翹の花が咲くまでじっとしてしばらく居よう 鬼さん来るな

三枝 浩樹 『黄昏クレプスキュール』 現代短歌社 2020年

 

連翹の花が咲くのを待って傍にしゃがんでいるのは、作者だ。小さな子どもの姿になっている。

どうやら、かくれんぼの気分。「鬼さん来るな」と言いながら、鬼だけでなく、誰にも邪魔されずにじっと連翹の花が咲くまでを見守っていたいらしい。

春。庭の花もだんだんと咲いて、今年も咲いたねと庭に出ては花に挨拶したくなる。

連翹の花は、明るい黄色。地上近くから枝いっぱいに咲くので、しゃがんだら姿が隠れてしまうほど。子どものかくれんぼには、良い隠れ場所だ。作者も子どもの頃、実際に連翹の花の陰に隠れたことがあったのかもしれない。幼年期を思い出させるような懐かしさが、連翹の花の黄色にはある。

 

菜の花のおひたし男前豆腐 今宵ひとはだにあたためて飲む

 

こちらの歌の黄色は、菜の花。花を愛でるのみならず、愛でつつ食べてしまう。

今宵は菜の花のおひたしに男前豆腐を肴にして、ぬる燗をいただくのである。

菜の花のおひたしに季節を味わいながら、もうひと品は、少し硬めの男前豆腐。盛りの春には少し早い時季に、ひとはだにあたためて飲む酒の肴としては申し分ない。

連翹の花が咲くのを待ってしゃがんでいた人は、今宵はすっかり嗜みのある大人の姿で、ゆったりとお酒をいただいているのであった。