五島諭『緑の祠』
これもなにか、すごい感じの歌ですね。
下句のフレーズはちょっと怖いように鋭敏で、こういうことに気がついてのぞきこまないほうが楽というか、ちょっとしんどそうな歌だなと思います。
とても直截的な歌で、そこが魅力でもある。
一字空け前後の飛躍も、あまり易しいものではない。
いちおう景としては、山のロープウェイとかそんな感じなのかと思いました。
「ゴンドラ」というものの不安定さは、下句をみちびくものになっていると思います。
閉所+高所のつり下げられたもの、ごとごととゆれる箱。
そして「緑の谷」の緑という色がポイントで、緑が不安の色としてあらわれているように思います。山の緑ということだと思うんだけど、下句と合わさると強い印象をもって見えてくる。
短歌で色を言うと、けっこう強い意味になる。
白い手紙がとどいて明日は春となるうすいがらすも磨いて待たう 齋藤史
アクロバティクの踊り子たちは水の中で白い蛭になる夢ばかり見き 同
唐突に齋藤史ですが、二首とも「白い」がとても強く働いていて歌の世界を作っている。特に「手紙」は白いのが多いので言わなくていいところだけど、言うから歌になる。
同じようにこの歌の「緑」は全体にかかっている色のように思います。
歌集では続く次の歌がこれになる。
死のときを毎秒察知するようにホースの中を水が走るよ
「毎秒」の死の予感を、ホースに水が通ることに察知するという、これもまたひどく鋭敏な歌。
五島さんの歌、さわやかな青春歌に見えるものもあるし、けちのつかない秀歌という感じのものもあるのですが、
強いタナトスを制御するというモチーフも常にあって、狂気に近くなるような緊迫感が歌の輝きも作っているように思います。
はつなつは目に映るすべてのものに視線を返すことにしている