ふた瘤を揺りていとけなく立ち上る駱駝を午後のくもりに見をり

玉城徹『樛木』

 

なかなか変な歌だなと思う。気になります。
二瘤駱駝。
駱駝には一瘤駱駝と二瘤駱駝がいる。そのくらい知っている。
二瘤駱駝がゆさっと瘤を揺すりながら立ち上がる。動物園とかでしょうか。曇りの午後にそれを見ている。ほぼそれだけの歌です。

「いとけなく」は「幼けない」と書いて「幼くてかわいい、あどけない」みたいな意味です。
だから若い駱駝なんでしょうか。駱駝の立ち上がり方が幼かった、とか、何か言われると思ってなかったことを言われるような感じがします。瘤が揺れたりするんですね。
その運動が、妙に精彩を持って描かれる。
「ふた瘤を」からはじまるのがよく、二句「揺りていとけなく」が一音余りになって、ここでぐいぐい動いていく。

動物園だとしても、駱駝ってそんなに目玉動物じゃないし、「午後のくもりに見をり」はテンション低めに感じるのですが、だるく見てるわけではないというか、描かれる駱駝の動きが高解像度で、瘤の揺れまで見えている。立ち上がり方の幼さが描かれている。

よく日常系アニメなどで、髪とか細かいところの揺れなどが描かれていたりしますが、ちょっとそんな感じがします。
駱駝が立つときに瘤の揺れを言うのがいい。アニメで駱駝が立つときにちょっと瘤が揺れてたらおっと思いますよね。二つの瘤の揺れ方が微妙に違ったりして。
歌としては「駱駝」より形と運動が先にあるということなのかもしれない。「ふた瘤」の運動がだんだん駱駝になっていくような感じもします。

 

莨火を床に踏み消して立ちあがるチエホフ祭の若き俳優 寺山修司

 

三句が「立ちあがる」というと、こんな歌が思い浮かびます。この歌も二句が一音余りで動きがある。
こちらはもっとドラマチックなカメラワークという感じがします。

 

きよらなる夕べ舗装路の遠くにはけものが出でて坐りをる見ゆ

 

今日の歌と同じ歌集から動物の歌をもう一首。これも好きです。
遠くで座っているけもの。硬質な舗装路の遠くに座っているというのが、不思議なおもむきがある。「出でて」を言うのも面白い。けものは出てきて座る。
「きよらなる」がうっすらとかかっていて、この夕べの中に行きたい気がします。

 

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