高柳 蕗子 「短歌」2021年11月号 角川書店
「雑詠@お墓オマージュ傾向」10首より。
ぺろんぺろんと顔を舐めあげるのは、季節だという。
「ぺろんぺろん」というオノマトペに、大きな舌がひらめくのが見えるようだ。そして、次々と舐め上げられてゆく人々の顔も。
歌を読んだだけで、舐められた後の舌の感触がリアルに自分の顔にもあるようで、ぞわっとする。これはもう「千と千尋の神隠し」の世界だ。
季節は顔を舐めあげることで、その人の認証コードを読み取っている。そこでは、人間の存在は単なる情報である。
今や人間はすべて、このようにコンピューター・システムの中で管理されている。あなたの命を、あるいは、あなたの財産をお守りしているのです、などと笑顔で囁かれながら。
季節は移り変わる。その度に、ぺろんぺろんと舐めあげられ、更新された認証コードが読み取られていく。このシステムからもはや逃れることはできないのだとしたら、人間の未来はどんなものになっていくのだろう。
QRコードの微塵ふとゆらぐ ほとけござるか ござらんござらん
「QRコード」は広辞苑では、「二次元コードの方式の一種。商標名。」と出てくる。これでは、なんのことやら訳が分からない。
近頃は、テレビ画面の隅にも現れて、アナウンサーが「詳しくはQRコードを読み取って……」と言ったりしている。説明を省く、手抜きの手法なのか? 「便利でしょ?」と言われながら、その便利さは誰のためのものなのか、分からなくなるときがある。
そもそも読み取るためには、スマホをかざす必要がある。今やスマホを持っていることが大前提である。スマホ無しには始まらない。誰もが水戸黄門の印籠のようにスマホをかざすのである。そうすることで世の中が成り立っている、ってホントですか?
この歌で、QRコードの微塵(細かい模様)がみせたゆらぎは、何のせいだろうか。
見ている側の、めまい? スマホ無しでは細かい模様にすぎないものの、いかがわしさ?
「ほとけござるか ござらんござらん」と作者は言う。
ふと見回せば、どこもかしこもQRコードで溢れている。そういう世の中では神も仏もあるものか。デジタル化が加速しているように見えるその先に待っているのは何だろう。
半音ずつ低くなる空 空空空 これからいっぱい怖い目にあう