韓国と日本どっちが好きですか聞きくるあなたが好きだと答える

カン・ハンナ 『まだまだです』 角川書店 2019年

 

作者は、1981年ソウル生まれ。2011年に来日し、歌集出版の時点で横浜国立大学大学院都市イノベーション学府博士後期課程に在学中。ホリプロに所属し、タレントとしても活躍中。(著者略歴による)

日本語を知らず、知り合いさえいない日本に来て4年、短歌を始めて2年半というときに角川短歌賞に応募して佳作に入賞した。本人はそのことを「短歌との運命を感じました」と歌集のあとがきに書いている。

短歌との出会いは、新海誠監督のアニメーション映画『言の葉の庭』の中に出てきた万葉集。「鳴る神の少し響みてさし曇り雨も降らぬか君を留めむ」に涙が止まらなくなり、たった三十一文字だけなのにこんなに人の心を動かす力に衝撃を受け、そこから万葉集を買って読み始めたのだと言う。(これも歌集のあとがきによる)

きっかけとなったのがアニメ映画というのは〈今〉っぽいが、その先がいきなり万葉集である。そして、そこから自分で短歌を作りはじめ、2年半後には大きな賞に応募して佳作になるなんて、この人の才能は計り知れない。

さて、ここで取り上げた一首。

「韓国と日本どっちが好きですか」は、よく周囲の日本人がしてくる問いかけなのかもしれない。聞かれた方は、どう答えていいものかと困ってしまうことだろう。デリカシーのない愚問とも言える。

しかし、聞かれた本人は、そういうことを聞いてくる「あなたが好きだ」と答える。上手な切り返し。聡明さが窺える。

相手を拒んだり否定するのではなく、受け容れた上で相手を傷つけないように応じる。察しの良い人ならば、自分の発した問いかけの愚かさに気づくことだろう。

 

日韓の論百枚を書きはじめ始める私の本当の愛

 

「書きはじめ」「始める」という言葉の継ぎ方の巧さにまず目がいく。それから内容へ。

日韓双方の歴史や文化、その違いや類似点等々。それを書くことは、より深く双方を知ることだ。そして、その先にこそ「私の本当の愛」と言えるものがある。この歌に籠められた力強い宣言の響き。実に頼もしい。

 

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