生きむとする気力の違ひ木にありて雑木林のみどり、きみどり

中村仁彦『ユアトーン』(柊書房、2020年)

 

ひとつまえに〈独りつわれの言葉を聞かぬやう部下は煙草を吸ひに出てゆく〉といううたがあって、一冊はこういう職場をうたってたのしいうた、印象的なうたにみちている。そういうなかで、この一首も読んだ。

 

雑木林にさまざま木が立って並ぶ。色の濃いのうすいの。まさに雑然という感じ。その違いはというと、むろん「気力の違ひ」ではないのだけれど(木の種類や環境、条件、齢の違いだろう)、ここでうたのわたしはそこに「気力の違ひ」をみている。

 

「生きむとする気力」わたしにとぼしいかゆたかなるか。今日はいくぶん弱っている、そんな日であるかもしれない。あるいは「部下」や上司や同僚、仕事相手とのかかわりあいのなかで、「気力の違ひ」が気にかかるころなのかもしれない。

 

いずれにしても、うたは「木にありて」ではないのだから、あまり意味をこめすぎず、また人と木とを併置するというよりは、そこにうっすら重なるくらいにして読んだ。だからもっとじっさいに、木の「気力の違ひ」をおもい浮かべることもできる。そういうおもいのやりかたが、ここにはある。

 

全体を「生きむ」「気力」「木」「雑木林」「きみどり」の〈き〉の音で統べながら、「みどり、きみどり」の結句は簡潔に、いくらも脱力して、ある余裕さえ感ずる。みどり、きみどりの語順が重しのように一首を留めている。洞察は素朴ながら、そのうちに、長くものを視るまなざし謐かに徹る一首。

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