田上義洋『ひともじのぐるぐる』(六花書林、2022年)
スーパーの刺身は、ある時間になったら「半額」のシールが貼られる。それを「楽しみ」にしながら、これは残業だろうか、仕事をしているようだ。仕事が終わったから帰る、のではなく、その「半額」の時間に合わせて、仕事をしまいにしようとしているところに、たのしみがある。
歌集のなかにはもうひとつ、
半額シール貼られし後に手が伸びる魬サーモン鶏魚間八
といううたがある。これはシール貼られてすぐのころ。間八はかんぱち。さまざまの種類の刺身がのこっている。
時間が早ければ「半額」にはありつけず、また遅すぎると、こんどはどれもこれも売り切れてしまって残っていない。あったとしても、好きには選べない。ここぞ、というタイミングが大事なのだ。
ふだん行くようなスーパーだろう。だいたいこのぐらいに行けばよい、というのをわかっている。もうひとつ仕事ができるか、ここまでか、「時計を見つつ」その時間までを過ごす。
うたは、「半額刺身」の一語に立ち止まる。造語といってもおおげさなものではないが、「スーパーの刺身が半額になるのを待つ」のと、「スーパーの半額刺身を待つ」のとでは、いくぶん気持ちが違ってくる。ここに、いまひとつこの対象をわたしに引きつけて、おもいいれ深くうたったこころがおもわれてくる。
おかしみのなかに、温かさにじむような一首である。